Ay&Ty Style in Geneva #10 ->F.P.Journe VagabondageIII

 By : Ay&Ty Style
Day-3
F.P.ジュルヌの本社は、ジュネーヴの中心、ジュネーヴ大学から歩いて10分ほどの古い街並みにあります。
モンブラン橋付近のホテルからも15分と、十分徒歩圏の好立地の本社には、ムーブメントの製造、組立てを行うファクトリーが併設、というよりファクトリーが大半を占める建物を、本社として使用していると言う方が適切かもしれません。
ここでは例年、SIHHの会期を合わせて新作の発表が行われ、多くの関係者で賑わいます。

今年は、1月16日から20日までの5日間、Vagabondage IIIの発表、お披露めが行われました。
私たちが訪問したのは最終日の20日。



正面の入り口から入り、赤いカーペットの敷かれた大理石の階段を登ると、サロンのようなスペース。







挨拶もそこそこに、サロンの奥にあるファクトリーを見学させてもらいました。
ファクトリーは、古いオフィスビルを改装して作られているため、複雑に入り組んでいます。
まずは、プレート等の主要部品の製造を見せていただきました。FPジュルヌのムーブメントは、主要部品が真鍮ではなく、ローズゴールドで作られているため、その製造の様子も非常に見栄えがします。













続きまして、組み立てのエリア。
FPジュルヌの大きな特徴として、複数の時計師が工程を分担し、流れ作業で組み立てるのではなく、1つ1つのムーブメントについて、1人の時計師が最初から完成まで責任を持って組み立てます。
なんと新作の、Vagabondage IIIの組立て現場を見ることができました。
Vagabondage III にはルモントワール機構が組み込まれていることから、通常の時計よりも組立てに高いスキルが要求されます。そのため、Vagabondage IIIの組立ては、たった一人の時計師で行なっているのだそうです。
それがこの彼!



左上の大きなディスクが時間を表示するもの。
下は秒。左が10の位、右が1の位。



いくつかの個体を並行して組み立てているようですね。



ケーシングされたばかりのVagabondage III



ファクトリーの見学を終え、正面のサロンに戻ってランチをいただきました。
ランチをいただきながら発表されたばかりの新作を手にとって見ることができるのは凄いですね。寒いこの時期にジュネーヴに集まる意味があります!

さて、さっそくVagabondage IIIを手にとります。
Vagabondage3部作の最終章。
ジュルヌさんの着想から起算すると20年にわたる、時の漂流の終着点がこちらです。



Vagabondage シリーズは、FPジュルヌの中でも極めて特殊な位置付けの限定ウォッチ。それは、文字盤のどこにもF.P.Journeのロゴが書かれていないことからも分かります。
Vagabondage は、もともとはFPジュルヌとしてリリースされるために考えられたものではなく、ジュルヌさんが某著名ブランドのために設計した企画でした。ジュルヌさんはその時点で、Vagabondageを1本限りの時計ではなく、一連のシリーズとして作ってゆくことを考えていたそうです。
結局、某ブランドに提案された企画は実現せず、そのままお蔵入りかと思われたところ、数年後にアンティコルムの30周年記念チャリティーオークション(2004年)への出品企画が提案され、晴れて世に出されることになりました。
オークションのために制作されたのは素材違いの3本。WG、RG、そしてYG、そのいずれもが高値で、某コレクターによって落札されました。

しかし、その時点ですでに、FPジュルヌには多くの熱狂的なコレクターが存在しました。当然のことながら彼らは、Vagabondageをリクエストします。これに応える形で2005年に69本限定で制作されたのが、PTケースのVagabondageです。なお、その後、Vabagondageのベゼルにバゲットタイヤを敷き詰めたモデルが10本制作されています。この10本は当初予定されていたものではなかったようですので、おそらく強い熱望が寄せられたのでしょうね!
Vagabondage I は、スライディングアワーという特殊な機構で時間を表示するものですが、ここでは割愛します。機会があれば改めて記事にしましょう。

ジュルヌさん自身、Vagabondage I を2005年にリリースしたときから、すでに3部作にすることを想定したのだそうです。そして2010年、Vagabondage IIが発表されます。PTケースで69本、RGケースで68本の137本。それとは別にPTのバゲットダイヤが10本。
Vagabondage Iの時は、すでにオークションピースとしてRGを使ってしまっていたので、PTしか作れませんでしたが、Vagabondage IIはその制限がなかったため、RGも作ることができたのでしょうね。

Vagabondage IIについては、すでに何度かブログで記事を書いていますのでここでは書きませんが、3枚のディスクを使って時と分をデジタル表示するもの。同じ時期にA.ランゲ&ゾーネがツァイトベルクをリリースしたことから、当時はよく比較されたものです。アプローチが全く異なる別な時計ですよね。私はツァイトベルクも好きですが、やはりジュルヌさんの、機構はなるべくシンプルであるべきという考え方に強く惹かれます。ルモントワール機構によりトルクの使用効率を上げ、Vagabondage Iと比べても遜色のない超薄型ケースに機械式デジタルムーブメントを搭載。そしてあの極めて特徴的なデザイン。Vagabondage IIは、決してジュルヌを代表するモデルではありませんが、まさに傑作です。

そのVagabondage IIと新作IIIを並べて。



Vagabondage IIIは、時と秒をデジタル表示したもの。
1秒ルモントワールを備え、秒表示はそのトルクにより瞬転します。時ももちろん瞬転。ただし、両者はリンクされておらず、毎正時に必ず秒が同時にゼロになるわけではありません。分はセンター針でスイープします。
右上はパワーリザーブ表示。パワーリザーブは何と、40時間が確保されているのだそうです。毎秒ディスクを瞬転させるにもかかわらず、この薄型ケースのどこに長いパワーリザーブを確保するだけの力が蓄積されているのでしょうか。



デザインについては、はっきり言って賛否両論ですね笑。
実はこれ、Vagabondage II の時も同じでした。私が最初にVagabondageIIの実機を見たのは、ジュルヌさんが来日した際にコレクター仲間とランチをした時だったのですが、その席でもむしろ、Vagabondage IIに釘付けになっていたのは私ひとりだったような、、、。
今回は、Vagabondage IIが確固たる評判を獲得している中、それとの比較でIIIはどうなのか、という声が多く聞かれました。確かに、IIと違って、トノー型のベゼルに沿って広くスケルトンになっておらず、周辺部分がプレートで覆われています。また、スケルトン部分は完全にスケルトンになっており、IIのような「島」がありません。そのため、スケルトン部分に密集したデジタルのディスクがビジーな印象を与え、「IIの方が良かった」という否定論が生じるのです。

とはいえ、1秒単位でディスクが瞬転する動きは他に類のないもので、そのような機械が着け心地のよい薄型ケースに搭載されているというだけで、十分すぎるほどの価値を実感できる時計だと思います。



この日はサロンで見ることができたのはPTだけだったのですが、特別に別室でRGも見せていただくことができました。
周辺部分の2トーンをどう見るか、PT以上に賛否両論!





Vagabondage IIIは、IIと同様に、PTケースで69本、RGケースで68本が制作されます。そして未公表ながらおそらく、10本のPTバゲットも作られるはず。

そして、一部で複雑な感情を生むことになってしまっている販売方法についても触れておきましょう。

VagabondageIIIは、VagabondageIIの所有者に、IIの限定番号と同じ番号のIIIを優先的に購入することのできる権利が与えられます。例えば、VagabondageII PTの28番を持っている方は、III PTの28番を優先的に購入することができます。

これは一連の物語というジュルヌさんの思いによるもので、VagabondageIIの際も同じでした。この時もVagabondageIの所有者に同じ番号の優先権が与えられたのです。
ただ、当時とはFPジュルヌの知名度も大きく異なりますし、IからIIは製造個数が倍に増やされたのに対し、IIとIIIは同数ですので、競争はどうしても熾烈になりますよね。7年間でジュルヌの熱心なコレクターとなった方もたくさんおられますが、たとえグランソヌリを購入したVIP顧客であっても、当初の優先権は与えらないという割り切り。
それ故に様々な感情を生むのはやむを得ないのですが、過去の履歴より今後の購入見込みを重視しがちな高級消費財の商売(日本の愛好家の皆さんも心当たりないですか?たくさん買っているときはあんなに大切に扱ってくれたのに、落ち着いてしまったら...)とは真っ向異なる販売方法は、とても新鮮です。


もっとも、優先権は永久に保持されるものではなく、引越しなどで連絡がつかない場合等、短い一定期間のうちに購入意思が確認できない場合には失効するようです。また、ブティックから販売された後、第三者に譲渡するなどして、名義人と現所有者が異なるケースでは、現所有者から手が挙がった場合には現所有者が優先するそうです。ただし、現所有者にはブティックから当然に連絡があるわけではありませんので、自発的にブティックに連絡した方がよいと思います。
優先権が失効した限定番号については、販売店の任意で別の顧客に割り当てることはできず、いったんジュルヌ本社がフリーの番号を集め、改めて、各販売店への割当てを行うそうです。IIが発表された時と比べて現在はブティックの数が増えています(現在世界で11ブティックあります)ので、ワールドワイドで公平な取扱いをする必要があるのでしょうね。
私が聞く限り、Vagabondage IIIはすでに世界的に非常に多くの引き合いがある様子で、東京ブティックでは、優先権を持っていない方に対して、本国から何本の割り当てを受けることができるかについても現時点でわからないとのことです。また、割り当てを受けた個体についてどの順番(先着順なのか、購入実績順なのかなど)でお声がけするかについても未定で、本国から統制がかかる可能性もありそうです。
すでにPTはかなりの手が挙がっているようで、これから手を挙げるならRGの方が可能性高いような気もしますが、、、どうでしょうか!



こちらもVagabondage IIと並べて。



サロンでは他国のジュルヌファンの方も交えての盛り上がり。
腕を外して時計を並べるという、日本でもお馴染みの流れに。
海外の熱心なファンからすると、日本はジュルヌの最初のブティックがある都市として聖地のような見方がされているようです。東京での再会を誓いましたので、その際はぜひ、日米愛好家によるジュルヌオフやりましょう!







会場の様子を少しだけ動画で撮影しましたので、ご覧ください!






ランチをゆっくりいただいて、失礼したのは夕方近くでした。
ジュルヌさん、スタッフのみなさん、長時間ありがとうございました。

この後はSIHHの最終日の様子を少しだけ見に行きました。
新たな試みで、今年から最終日は一般公開(有料)されたため、かなりの混雑を予想していましたが、終了間際の時間だったためか、混雑で時計を見れないというような状態ではなかったです。ただ、通常の日のあの雰囲気とは、やはり少し違いました。

Day-4に続きます。
注目のアトリエドクロノメトリー、見ましたよ!